インプラントを使う「乳房再建手術」はどのように行いますか
シリコンインプラント(以下インプラント)を使う「乳房再建手術」では、最初にティッシュ・エキスパンダー(以下エキスパンダー)を使って皮膚や筋肉を伸ばす方法が一般的です。
現在、一般的に行われているのは次の2つの方法で、エキスパンダーを入れるタイミングが異なります。
①乳がん手術と同時にエキスパンダーを入れ、あとからインプラントに入れ替えて再建する方法(一次二期再建)
乳がん切除時にエキスパンダーを大胸筋の下に挿入し、皮膚と筋肉を徐々に伸ばし、約6か月後に同じ傷あとからインプラントに入れ替えて乳房再建を完成させます。
②乳がん手術後に一定期間をおいてエキスパンダーを入れ、あとからインプラントに入れ替えて再建する方法(二次二期再建)
乳がん手術を終えてから時間がたっている場合は、乳がん手術の傷あとを切開してエキスパンダーを挿入し、皮膚と筋肉を伸ばしたあと、インプラントに入れ替えて乳房再建を完成させます。
一般的ではありませんが、エキスパンダーを使わずに再建することもあります。
①乳がん手術と同時にインプラントを入れる方法(一次一期再建)
乳がんの切除と同時にインプラントを挿入して乳房再建を完了する方法です。
②乳がん手術後に一定期間をおき、エキスパンダーを使わずにインプラントで再建する方法(二次一期再建)
乳房のボリュームが比較的小さい方に限られる方法です。
手術時間・入院期間と費用
エキスパンダーとインプラントを使う場合の手術時間・入院期間および費用の目安は次のとおりです。
エキスパンダー | インプラント | |
---|---|---|
手術時間 | 30分〜1時間 | 30分〜2時間程度 |
入院期間 | 日帰り〜1週間程度 | 日帰り〜1週間程度 |
費用 | 10万〜20万円 | 30万円 |
※現在、保険適用になっているエキスパンダーとインプラントによる再建の手術費用(自
己負担3割の場合)です。また、高額療養費制度を利用すると、実質的な負担額は9〜14万円程度となります。入院期間は施設によって異なります。
自己負担限度額の計算方法は全国健康保険協会のウェブサイトをご覧ください。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp
保険適用のエキスパンダーとインプラントによる「乳房再建手術」は、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会が実施施設として認定した医療施設でのみ行えます。認定施設一覧は、同学会のウェブサイトに公開されています。
http://jopbs.umin.jp
インプラントを使う「乳房再建手術」の注意点は何ですか
インプラントを使う「乳房再建手術」は手術時間・入院期間が短く、自分のからだの組織を使う手術より時間的・経済的・身体的な負担が小さいという利点がありますが、人工物を使うことによるさまざまな注意点があります。
合併症のリスク
人工物を体内に入れるため感染症を招くことがあります。感染症は、手術から長期間を経ていても起きるおそれがあり、その場合はインプラントを取り出して再建手術をやりなおします。
異物に対する免疫反応として、テクスチャードタイプ、スムースタイプにかかわらずインプラントの周囲に薄い膜が生じ、かたくしまって痛む「被膜拘縮」という合併症が起きることがあり、保湿など日常のケアが必要です。
乳がんの治療で放射線照射を受けた方は、血流が悪くなり種々の合併症を起こしやすい傾向があります。
合併症の1つに「ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)」があります。ですが、たとえリコールとなったインプラントを使用していたとしても、すぐに入れ替えなければいけないという緊急性はありません。年に1回の定期検診と2年に1回の画像診断を欠かさず受け、さらにご自身の胸の小さな変化に気づけるよう、自己検診を行うことで、不安なく日常生活を送っていただけます。万が一異常を感じた場合には、すぐ医療機関に相談しましょう。
将来的な入れ替え
インプラントには永久的な耐用性は保証されておらず、さまざまな理由で破損することもあります。現在使用されているインプラントはいずれも安全性の高いものではありますが、毎年の定期検診を欠かさず、医師の指示に従って入れ替えを検討することが望ましいです(入れ替えの際に、自家組織での再建に切り替えることもできます)。
なお加齢にともなう乳房の下垂がないので、将来的に左右のバランスをそろえる手術が必要になることもあります。
きれいな乳房再建は、その方に適したインプラントを選ぶことから
医療法人社団
ブレストサージャリークリニック 院長
岩平 佳子
現在、乳がんによる乳房再建手術において保険適用となっているインプラントには、ラウンド型とアナトミカル型があります。いまなお、「アナトミカル型のインプラントを使えばきれいに再建できる」という誤解が多いのですが、重要なのはその人に合ったインプラントを選択することです。乳房の形や大きさによってはラウンド型のインプラントが合う方もいらっしゃいます。ラウンド型スムースタイプのインプラントは、丸い形状のため寝ると乳房と同じような自然な動きが期待できますが、アナトミカル型では寝てもその形状を維持するという特徴があります。
また、エキスパンダーがきれいに入っていることも大切です。インプラントによる乳房再建手術を希望される方は、こうした観点からきちんと時間をかけて診察し説明してくれる形成外科医のもとで、納得のいく乳房再建手術を受けるようにしてください。
「乳房再建手術」に使うエキスパンダーとインプラントはどのようなものですか
「乳房再建手術」に用いるエキスパンダーとインプラントについてご紹介します。主治医と相談しながら、ご自分にもっとも適したタイプを選択しましょう。
1:エキスパンダー
再建手術では一般的に、インプラントを入れる前に、エキスパンダー(組織拡張器)を大胸筋の下に挿入して、胸の皮膚と筋肉を伸ばします。
挿入後、数か月かけて、注入口から生理食塩水を足してエキスパンダーを徐々にふくらませ、皮膚と筋肉が十分に伸びた約6か月後にインプラントに入れ替えて再建手術を完成させます(患者さんの希望や状況によって、エキスパンダー挿入後に自家組織による手術を選ぶこともできます)。
エキスパンダーによっては挿入中にMRI検査が受けられないものもありますので、必ず医師に確認しましょう。
エキスパンダーの例
2:インプラントの種類
現在、乳がんによる乳房再建手術において健康保険が適用されるのは、ラウンド型とアナトミカル型のインプラントです。表面加工はつるつる(スムースタイプ)とざらざら(テクスチャードタイプ)があります。凹凸(ざらざら)が大きいものはBIA-ALCLのリスクが高いと言われています。利点と欠点について医師とよく相談し、選択しましょう。
アラガン社製インプラントとエキスパンダーの販売停止と自主回収について
埼玉医科大学総合医療センター
形成外科・美容外科 教授
三鍋 俊春
2019年7月24日、医薬品・医療機器メーカーのアラガン社の日本法人アラガン・ジャパン株式会社が、同社が扱うテクスチャードタイプの乳房再建用エキスパンダーとインプラントについて販売停止と自主回収を発表しました。当該商品の使用者に、「ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)」という合併症の発症があったことを受け、FDA(アメリカ食品医薬品局)が、自主回収を求めたことによるものです。
この発表を受け、多くの患者さんに混乱と不安が広がりました。しかしBIA-ALCLの発症率はとても低く、進行も遅いのが特徴で適切な処置をすれば治癒します。インプラントによる乳房再建を受けている方は、自覚症状の有無に関係なく、年に1回の定期検診と、2年に1回の画像診断(MRIや超音波検査など)を欠かさず受ければ、不安なく日常生活を送っていただけます。また、症状がなければインプラントを摘出する必要はありません。
スムースタイプ
表面加工はつるつる(スムースタイプ)。形状はラウンド型です。シリコンゲル(以下ゲル)のかたさの違いなどにより立てたときの形状が異なります。
ラウンド型の例
- ゲルのかたさ:ソフト
表面がつるつるしたまるいおわん型。立てたときにしずくのような形状になる。
- ゲルのかたさ:ミディアム
表面がつるつるしたまるいおわん型。立てたときにしずくに近い形状になる。
- ゲルのかたさ:ハード
表面がつるつるしたまるいおわん型。立てても形状は変わらない。
協力
アラガン・ジャパン株式会社、株式会社メディカルユーアンドエイ、株式会社高研
テクスチャードタイプ
表面加工はざらざら(テクスチャードタイプ)。形状はラウンド型とアナトミカル型があります。
-
ラウンド型の例
表面がざらざらしたまるいおわん型。
ゲルはかためとやわらかめの2種。
-
アナトミカル型の例
表面がざらざらした下方に厚みのあるしずく型。
ゲルはかため。
ハンドブックはこちらからダウンロードできます
Webサイトの情報以外に乳がん患者さんのためのQOL向上ガイドなども掲載されているハンドブックを無料でダウンロードすることができます。
※本冊子の内容の無断転載・複写は禁じられています。内容を引用する際には必ず出典、リンク元を明記してください。