2020年10月14日 【米国シエントラ社インプラントが保険適用】 「ブレストサージャリークリニック岩平佳子先生に聞く」を掲載
2020年8月20日に米国シエントラ社のシリコンインプラントが薬事承認され、10月1日から保険適用となり、乳房再建を考えている皆さんの選択肢が広がることとなりました。
E-BeCでは9月13日に医療法人社団ブレストサージャリークリニックの岩平佳子先生を講師にお招きし、オンラインセミナー「人工物再建のホントのことろ」を開催。
アラガン社とシエントラ社のそれぞれのインプラントの特徴と、インプラントで再建するにあって何を考えたらよいのか、さまざまなアドバイスをいただきました
インプラントの素材にかかわらず被膜拘縮は起きます
自分の胸に合うインプラントを選ぶことが大切です
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会理事
医療法人社団ブレストサージャリークリニック院長 岩平佳子先生
BIA-ALCL(悪性リンパ腫)の罹患率と治療について
2019年、アラガン社製のブレスト・インプラントとティッシュエキスパンダーが販売停止と自主回収になりました(※)。
最初に「インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫」(BIA-ALCL)についてお話しします。
BIA-ALCL(悪性リンパ腫)の患者さんの中心は、豊胸手術をした欧米の白人で、なかでもとくに胸を大きくした人でした。アジアでは、症例調査で発覚したのは現在で4名。タイ1名、シンガポール1名、日本1名、韓国1名。
日本の患者さんは、17年前に再建をされた方です。
では、BIA-ALCL発症のサインとはなにか?
アメリカの形成外科学会が出している患者さん向けのパンフレットによると、「胸が突然腫れて、なにかが溜まった感じがする」というのが自覚のポイントです。
たとえば48歳の患者さん(豊胸)の症例では、右側が突然腫れて大きくなり、シリコンとその周りを包む被膜を摘出することで完治しています。化学療法や放射線照射はしていません。自分の胸がぱんぱんに腫れてきたと感じた場合は、すぐに受診してください。腫れている原因のリンパ液を抜いて、病理検査に出すことでBIA-ALCLかどうかがわかります。
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会では、診療ガイドラインを作っていますので、少しでも心配な場合は主治医に診察してもらいましょう。
現在、リコールとなったインプラントが入っていても、抜かなければならないというほどの緊急性はなく、確率としては新型コロナウィルスにかかるよりも、健側が乳がんになるよりも、ホルモン剤の副作用で子宮がんになるよりも低いということです。1年に1回、超音波検査をし、インプラントを入れてもらった形成外科医に診察をしてもらいましょう。急に乳房が腫れたり、なにか溜まっているような気がしたら、すぐに受診できるような関係性を主治医と保つことが大切です。
万が一、BIA-ALCLだと判明したとしても、早期であればインプラントと被膜を切除すれば完治します。きちんと治療すれば予後もいいので、BIA-ALCLをいたずらに怖がらない、「正しく怖がる」ということを頭に入れておいてください。
また、今回の件を受けて、「インプラントに入れ替えず、エキスパンダーのままにしておけば安心?」と、長期間入れたままの方がいらっしゃいますが、エキスパンダーは、1年以上入れていたら壊れることもあります。破損するリスクもあるということを念頭に、できれば半年から8か月で入れ替えてください。
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会
乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)についてよくあるご質問http://jopbs.umin.jp/general/docs/20191111_patient_faq.pdf
アラガン社とシエントラ社 インプラントの性能に違いはある?
2020年10月1日、シエントラ社のシリコンインプラントが保険適用になりました。
アラガン社のインプラントと、今回、保険適用になったシエントラ社のインプラントはそれぞれどんなものでしょう?
★アラガン社のインプラント
現在、保険適用されているアラガン社のインプラント「インスパイラシリーズ」(ラウンド型スムーズタイプ)は、2006年に発売されました。当時、包んでいる袋とジェルが一体となったことで「ラウンド型インプラントの概念を変える」と言われました。中のジェルが固いので、皮膚のリップリング(波打ち)が起こりにくい製品です。
保険適用になっている「インスパイラシリーズ」のラウンド型は、70種類あります。厚さが2.0cmのものからあり、幅広く胸のサイズに対応しています。乳房再建に適しているものはTruForm 2とTruForm 3で、ラウンド型ではありますが、充填率によって形状が変わりTruForm 2は、立てたときにアナトミカルに近い形になります。
TruForm 3は、ジェルの充填率が高いため立てても形状が変わりません。
出典:アラガン・ジャパン株式会社のパンフレットをもとにE-BeCが編集
★シエントラ社のインプラント
シエントラ社のインプラントは3タイプで、10月1日より(A)アナトミカル型テクスチャードタイプのうち29種、10月12日より(B)ラウンド型テクスチャードタイプのうち6種類の販売が開始されました。今後段階的に使用できるタイプ、サイズが増えていく予定です。アナトミカルタイプのいちばん厚みが薄いものは4.2cm、ラウンドタイプは2.5cm、表面はザラザラしたテクスチャードとスムースの2種類です。
シエントラ社のインプラントは、日本人が使いたい厚みがうすいものがありませんので、アナトミカル型を希望していて合うサイズがない場合は、アラガン社のTruForm 2を検討してもよいと思います。
(A) アナトミカル型テクスチャードタイプ
しずく型で表面がざらざらした性状
(B) ラウンド型テクスチャードタイプ
丸型で表面がざらざらした性状
(C) ラウンド型スムースタイプ
丸型で表面がつるつるした性状
写真提供:株式会社メディカルユーアンドエイ
コラム1
インプラントにまつわる誤解
「アナトミカル型のほうが、乳房がきれいに仕上がる」は本当か?
人工物による乳房再建をする方で、アナトミカル(しずく型)のインプラントを希望される方はとても多くいらっしゃいます。おそらく、「乳房=しずく型」だと思っているため、そのほうが美しく仕上がるというイメージがあるのだと思います。
そもそも、乳房はしずく型なのでしょうか?
乳頭乳輪の位置が上にある方の乳房は、しずく型ではありません。そのため、ラウンド型のインプラントが合います。
アナトミカル型が向いているのは、乳頭乳輪が下にあり胸の厚みのある方です。具体的には、シエントラ社のアナトミカル型インプラントは、乳房の幅が11cm以上、厚みが4.2cm以上、乳頭乳輪が下の方についている方に向いています。
「アナトミカル型のインプラントのほうが、乳房がきれいに仕上がる」というのは、「乳房=しずく型」だという思い込みからくる誤解だと思います。
被膜拘縮はさまざまな要因から引きこされる
ラウンド型スムーズタイプのインプラントについて、「被膜拘縮がおきやすい」という誤解があります。
そもそも被膜拘縮はなぜ起こるのか?
被膜とは、人工物が入った時に身体を守ろうとしてできる膜で、刺激と皮膚の性状に関係があります。
被膜拘縮の外的要因としては、以下のものが考えられます。
1:やせていて、軟部組織が少ない
2:乳がん手術のときにセローマという浸出液がたまって、なかなかドレーンが抜けなかった
3:感染や炎症、血腫があったり放射線照射をしている
2020年1月にアメリカ形成外科学会に採用された論文では、乳がん手術と同時にエキスパンダーを入れた人のほうが、後からエキスパンダーを入れた人よりも被膜拘縮になりやすかったというエビデンスを示しました。
乳がん手術と同時にエキスパンダーを入れ内出血してしまった場合、その後、皮膚をしっかり伸ばしてシリコンに入れ替えたとしても、早期に被膜拘縮してしまいます。ドレーンがなかなか抜けないという場合も、刺激に対して身体を守ろうとするので被膜拘縮になりやすいのです。
内的要因、つまり中に入っているものの要因もあります。
1:エキスパンダーの位置
2:エキスパンダーの水の注入量や期間が不足している
3:インプラントの中身の材質(固形シリコン)
皮膚はもともと、縮もうとする性質をもっています。エキスパンダーを抜いた後、手術をした後など皮膚はどんどん縮んでいきます。
つまり被膜拘縮は、さまざまな要因から引き起こされ、最初のエキスパンダーを入れる位置や膨らませ方から影響しているのです。
インプラントがスムーズタイプか、テクスチャードタイプか、アナトミカル型か、ラウンド型かには関係なく、さまざまな要因によって被膜拘縮になるということをまずは知ってください。
資料提供:医療法人社団ブレストサージャリークリニック
このグラフは10年後の被膜拘縮率を示しています。緑がスムーズタイプ、青がテクスチャードタイプです。
赤で囲まれたグラフを見ると、スムーズタイプは25.8%、テクスチャードタイプが23.7%と、2.1%しか差がありません。テクスチャードタイプでも10年たてば被膜拘縮を起こします。スムーズタイプだから被膜拘縮になりやすいわけではないし、テクスチャードタイプだからならないわけではないということです。
コラム2
エキスパンダーの役割
乳房再建において、エキスパンダーの役割はとても重要です。
アラガン社のエキスパンダーの表面はつるつるで、「スーチャータブ」という、エキスパンダーが動かないように、患者さんの胸壁に縫い付けるタブがついています。
写真提供:医療法人社団ブレストサージャリークリニック
【エキスパンダー挿入のタイミングによる役割の違い】
一次再建:
乳がん手術と同時にエキスパンダーを入れるのは、皮膚の縮みを防ぐためです。
この場合、乳がんの手術による出血や浸出液の貯留が見られます。
二次再建:
術後にエキスパンダーを入れるのは、皮膚を伸ばすためです。胸がぺたんこになってからの場合は、より伸展が必要です。手術による出血や浸出液の貯留がなく、長く被膜拘縮がおきにくいという論文もあります。
さまざまな噂に惑わされず、自分にぴったりのものを選んで
これまで説明してきたようにラウンド型のスムーズタイプだと、きれいに再建できないということはありません。再建を検討されている方は、あるものから選ぶのではなく、「自分の乳房にあったもの」を選んでほしいと思います。
もし、主治医にすすめられたことに納得がいかない場合は、きちんと理由を聞きましょう。
これから再建をされる方は、自分が何を目的にインプラントで再建するのかを、改めて考えてみてほしいと思います。きれいな胸にしたいのなら、自分の胸にあったものを入れることが大切です。それはラウンド型のスムーズタイプかもしれないし、あるいはラウンド型のテクスチャードタイプかもしれない、アナトミカル型なのかもしれません。
乳房再建をお考えの方へ
インプラント再建、自家組織再建にかかわらず、いつも私が患者さんに申し上げているのは「あなたと私が生きている限り年に1回は検診しましょう」ということです。
大きな病院の場合、術後「卒業」と言われてしまうこともあるようですが、そういった場合には乳腺外科のクリニックに信用のおける主治医を持つことをおすすめします。定期的に通う意味は、新しい乳がんを探すためだけではなくインプラントに破損がないか、リンパ液がたまっていないかなどを超音波で調べてもらうためでもあります。
また、10年たつと被膜拘縮が起きる可能性もあるため、定期的な検診はとても大切です。
シエントラ社のインプラントが使えるようになることで、アラガン社のものと合わせて選択肢が広がります。ご自身の胸に合うインプラントを選択して、納得できるかたちで乳房再建されることを、心より祈っております。
(オンラインセミナー:2020年9月13日)