「再建医の使命は患者さんのQOLを高めること」三鍋俊春医師
三鍋俊春(みなべとしはる) 日産厚生会 玉川病院 形成外科
術式 : 自家組織(筋皮弁、穿通枝皮弁)、インプラント
標準手術時間 : ティッシュエキスパンダー挿入 1時間
インプラントへの入れ替え 1~2時間、自家組織 3~8時間
標準入院日数 : ティッシュエキスパンダー挿入 1週間~10日間
インプラントへの入れ替え 3日間
自家組織 2週間
乳頭・乳輪形成 : 実施は再建手術の6カ月後以降が目安
※方法は、健側乳頭の移植、タトゥー、大腿部からの皮膚移植や軟骨移植による形成など
一次再建、二次再建それぞれに特徴は異なります
私は皮弁(自家組織)移植による再建外科を専門として、皮膚や筋肉、血管解剖などの見地から、安全で美しい皮弁移植の実現に努めてきました。乳房再建については形成外科の世界的な重鎮であるオーストラリアのメルボルン大学のテイラー教授に教えを受け、シリコンインプラントを含む美容的な豊胸や下垂した乳房の固定術、減量術、乳頭形成術なども学びましたので、手術にあたってはこれら一連の方法を取り入れて美しい胸の再建をめざしています。
手術法は、患者さんの希望や条件に合わせてもっとも適切な術式を選択します。私自身、以前は一度の手術で再建まで完成させる一次再建を行うことが多かったのですが、最近は乳がん手術と同時にティッシュエキスパンダーを入れ、その後に再建手術を行う一次的二期再建のほうが、患者さんにも医師にもメリットが多いと感じるようになりました。
なぜかというと、状況によっても異なりますが、私の場合はエキスパンダーが落ち着いて、手術の傷が癒えるのを待って再建手術を行うことが多く、再建完了まで早くて2~3カ月、通常6カ月の時間を置きます。したがって、この間に患者さんは初回の手術から落ち着き、再建手術の情報を集め、再建方法について熟考することができます。さらにわれわれ医師も、エキスパンダーを使うことで、自家組織ならどの部分の脂肪をどれくらい使えばいいか、インプラントなら何ccのものが適しているかなどがよくわかり、再建手術の具体的なシミュレーションを行うことができます。
また、乳房再建と並行して放射線照射や抗がん剤・ホルモン治療などが行われる場合もあり、これらの治療状況をみながら再建方法を考えていけるという利点もあります。
本当の意味のオーダーメイド手術をめざします
患者さんによって、時間的・肉体的負担が少ない一次再建(乳がん手術と同時に再建)のほうが適した方もおられますし、ティッシュエキスパンダーを希望されない方には使わない方法をとることもできます。いずれにしても、医師は医学的見地から、その患者さんに最も適していると考えられる手術方法をお勧めします。ただしそれは、必ずしも患者さんが理想とする方法ではないかもしれません。
たとえば腹部の脂肪移植を希望されても、スリムな体型の方だと脂肪が足りず、インプラントをお勧めすることもあり得ます。逆に乳房が下垂気味の方にインプラントを用いると、乳房の左右バランスはどうしても悪くなります。患者さんの体型や乳がん治療の状況、さらにはライフスタイルによって、その方に適した手術の方法は異なりますが、それが本当の意味での患者さん本位の“オーダーメイド”の治療なのだと考えます。
一昔前に比べると、乳房再建手術にも“整容性”、すなわち見た目の美しさがずいぶん問われるようになってきました。せっかく再建する以上、作ったバストがかっこよくなければ意味がありません。現代の形成外科は、戦傷者が受けた傷の復元を目的に確立し、技術的な発展を遂げてきました。持てる技術を駆使してできる限りきれいに再建し、患者さんのQOLを高めて再び社会に戻っていただくことが形成外科医に与えられた使命。その意味で、私たちの仕事に終着点はありません。
(取材:2012年8月 2024年4月更新)
名称 | 日産厚生会 玉川病院 | ||
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所在地 | 〒158-0095 東京都世田谷区瀬田4-8-1 | ||
診察時間 | 三鍋医師:火曜~木曜 午後 金曜 午前・午後 (要予約) | ||
休診日 | 日・祝祭日・土曜日午後 | ||
TEL | 03-3700-1151(代) | ||
URL | https://www.tamagawa-hosp.jp/department/plastic-reconstructive/936/ |