「より小さな傷痕で、温かく柔らかい乳房再建を」佐武利彦医師
佐武利彦(さたけとしひこ) 富山大学附属病院 形成再建外科・美容外科
*2020年1月より横浜市立大学附属市民総合医療センターから異動
術式 : 自家組織(穿通枝皮弁)
※二次再建で、皮膚の不足を補える場合はティッシュエキスパンダーを併用。
連携病院 :KO CLINIC(横浜市中区)
標準手術時間 : 一次再建、二次再建とも6~8時間
標準入院日数 : 手術後7~9日間
乳頭・乳輪形成 : 実施は再建手術の1年後以降が目安(ただし現在は約1年半待ち)
※方法は、健側乳頭の移植、移植した皮弁の一部を用いた形成など。
乳輪は大腿部からの皮膚移植が主。
患者さんの希望やライフスタイルを知ることから
自家組織移植による乳房再建手術のなかでも、私がメインとする穿通枝皮弁法は、自然な形と大きさの乳房を再建できることに一番の特徴があります。手術時間と入院期間は長くなりますが、ドナー(移植する組織)側の負担が少なく術後の回復が早いこと、再建した乳房にしっかりと血流を確保できること、また術後のメンテナンスの必要がなく、年齢を重ねても自然な胸の形を保っていけることなどさまざまなメリットがあります。
自家組織移植では、下腹部やお尻、太股などをドナーとして最もよく用いますが、これらを組み合わせて使うことも少なくありません。どの場所からどれくらいの組織を取って再建に用いるかは、患者さん本来の胸の形はもちろん、ご本人の希望や価値観、ライフスタイルなどさまざまなことを総合的に勘案したうえで決めていくものだと考えています。
一人ひとりの患者さんは、年齢も生活状況も、置かれている社会的状況もそれぞれに異なります。受けた乳がん手術の状況や、各人が希望する再建手術の方式も違います。ですから私は、患者さんの普段の生活や手術に対する希望をできるだけ詳しくお聞きすることにまず力を入れています。選ぶべき手術方法はそのなかからおのずと見えてくるものですし、そこに専門的な見地から私の意見を提示して、患者さんとともに最善の方法を探っていくようにしています。
私たちが乳房再建の最終的なゴールとして目標を掲げているのは、大きな傷痕を残すことなく、自家組織のメリットである温かく柔らかく自然な形の乳房の獲得することです。最近では乳房全切除後の乳房再建の際に、BRAVA(体外式エキスパンダー)を手術前後に使用して脂肪注入の生着率を高めることに取り組んでいます。この方法は手術回数が増えるのが難点ですが、ドナー部はペン先くらいの傷痕のみでしかも痩身効果も期待できます。この再建法は解決されなければならない問題点もありますが、将来的には乳房再建術の主軸となる可能性があります。
あなたがどんな人であるかをぜひ聴かせてください
私が大学病院でさまざまな外科手術を手がけるようになったころは、乳がん手術も温存方式がようやく出てきたころで、まだまだ全切除が中心的な術式でした。医師にすれば切除するだけのことかもしれませんが、一人ひとりの患者さんにとっては乳房を失った状態が一生続くのです。「再建」ということに関心が向いたのは、そうした患者さんたちの辛さを目の当たりにしたことがきっかけでした。それから大学病院の先生に再建術の指導を受け、徐々に自分の手術に取り入れていくうちに患者さんからの要望も増え、気が付けば乳房再建がほとんど自分の専門のようになっていました。長時間に及ぶ手術で体力を要しますが、私にとって一番の原動力となっているのは、きれいで自然な乳房を取り戻して喜ばれる患者さんたちの存在に他なりません。
私が手がけてきた患者さんには、乳房再建手術を受けることで、手術前よりも積極的な人生を送っている方がものすごくたくさんおられます。それほど乳がん患者さんたちにとって、再建手術には大きな意義があるのだと思います。逆にいえば、「再建したらこんな生活がしたい!」ということを具体的に思い描き、その気持ちを抱き続ければ、大変な手術もその後の治療も乗り越えていけるはずですし、私たちもそうした患者さんのお役に立つことが最大の喜びです。
あなたがどんな人であるかを私たちに教えてください。そして、どんな方法であなたの乳房を再建していけばよいかを一緒に考えていきましょう。
(取材:2012年9月)
名称 | 富山大学附属病院 | ||
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所在地 | 〒930-0194 富山県富山市杉谷2630番地 | ||
診察時間 | 火曜日 ※受診の際は病院にご確認ください。 | ||
休診日 | 土曜日、日曜日、祝日、年末年始(12月29日~1月3日)、病院が定める休診日 | ||
TEL | 076-434-2281(病院代表) | ||
URL | https://u-toyama-keisei.com/ |