乳房再建手術経験者の声

絶対に開けたくなかった「乳がん」という鎖のかかった重い扉。ところが、その先にあった乳房再建の扉を開けてみたら、広がっていたのは可能性満ちた景色だたのです

＊2024年10月発行　写真集『New Born -乳房再建の女神たち-』（撮影：蜷川実花、企画：NPO法人E-BeC、発行：赤々舎）に収録しているモデルの経験談「わたしのストーリー」より

岐阜県 N.Nさん（52歳）

手術方式：一次二期再建（自家組織）

・乳がん手術
2018年2月：右乳房皮膚温存乳房全切除術＋エキスパンダー

執刀：乳がん手術　岐阜県総合医療センター　乳腺外科　小木曽敦子先生
エキスパンダー挿入　岐阜県総合医療センター　形成外科
小野昌史先生

・乳房再建手術
2020年9月　腹部穿通枝皮弁（右）
執刀：富山大学付属病院　形成再建外科・美容外科　佐武利彦先生

・乳頭再建手術
2022年3月　乳頭再建（皮弁立ち上げ）
執刀：富山大学付属病院　形成再建外科・美容外科　佐武利彦先生

・乳がん治療
術前治療：なし
術後治療：ホルモン療法（タモキシフェン10年）
＊リュープリン　副作用のため医師と相談のうえ1回のみ

右乳房の異変には1年くらい前から気づいていました。毎回生理のたびに胸がひどく痛むのですが、右側がとくに痛くて奥にモコッとしたものがあり、乳がん？と自問自答していました。病院を受診したのは2人の息子のダブル受験がいよいよ1年後に迫ったときでした。受験時に私がいなかったらシャレにならないからと、思い立ちました。
診断は乳がん。「やはり」と思うと同時に、受験までの治療スケジュールを考えねばならず、幸か不幸か落ち込む暇はなかったですね。

手術は部分切除の選択もありましたが、きれいな形に残るとは限らないと経験者からお聞きし、迷っているときに、主治医から全摘してインプラント再建をする提案がありました。この時初めて、乳房再建のことを知りました。知識のない私に、インプラントで再建した看護師さんが、親切にもご自分の乳房を見せてくださって。メリットとリスクを納得し、再建を決めました。

ところがそこからが苦しみの始まりでした。私の胸は特別に痛みを感じやすいようで、乳がんの術後、エキスパンダーが入った右胸が、ものすごく痛むのです。歩くだけで痛い。走るなんてもってのほかでぐっすり眠ることもできません。
これではインプラントに入れ替えたあとも痛みからは解放されないだろうと、恐怖を覚えました。家事をこなすのがせいいっぱいで、「一生のうちでなんでもできる時期は終わった。再建をしても痛みを抱えたがん患者として生きていくのだ」と思いました。

そんな人生観を大きく変えたのが、手術の半年後に銀座で開催されたE-BeCの乳房再建のセミナーでした。地元の患者コミュニティで自家組織再建をした方が紹介してくれたのです。通っていた病院は当時、インプラント再建しか行っておらず、それまで自家組織再建のことを知りませんでした。
セミナーで、顕微鏡を見ながらお腹と胸の血管をつなぐ再建法の講演を目が覚める思いで聞き、「体感会」では再建した人の乳房を見て触って、お話を聞かせていただきました。左右どちらが再建側かわからないほど自然な、お腹を使った自家組織再建の乳房に触れ、その方に今痛みがまったくないことを伺い、私にはこれしかないと思いました。

結果的に約2年半、痛みに耐え続け、お腹を使った自家組織再建を受けることができました。
出来上がった私の乳房は柔らかで温かく、痛みからも完全に解放され、新しい胸にとても満足しています。先日、乳頭乳輪の再建も終えました。

がん宣告を受けた時、決して開けたくなかった重たい扉を開けてしまったと思った私でしたが、いま、再建を終え、その扉の向こうに見ているのは、可能性にあふれる花畑のような心地よい景色です。

2024年5月　インタビュー：山崎多賀子

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