「1冊の本との出会いが導いてくれた『乳房再建手術』」
埼玉県 T.Mさん(48歳)
手術方式:「一次二期再建」(腹直筋皮弁 乳がん手術と同時にティッシュエキスパンダーを挿入)
・乳がん手術:2010年年8月 左乳房皮下乳腺全切除
執刀・埼玉医科大学総合医療センター 大西清医師
・乳房再建手術:2010年8月 エキスパンダー挿入
2011年11月 自家組織(腹直筋皮弁、ドナー=お腹)による再建
2012年8月 乳房の形を整える修正手術を行う
執刀・埼玉医科大学総合医療センター 三鍋俊春医師
術前治療:無治療(抗がん剤、放射線、ホルモン療法は行わず
術後治療:同上
最初にかかったのは普通の外科病院!
最初に左胸にしこりを発見したときは、あまり深刻に考えてはいませんでした。ただ友人から「1回検査を受けた方がいいよ。なんでもなければそれで安心できるんだし」と言われ、それもそうだなと軽い気持ちで行ったのが、普通の外科の病院でした(笑)。それぐらい、当時の私には乳がんの知識がありませんでした。
改めて、乳腺外科のある病院で検査を受けたところ、左乳房に非浸潤がんがあることが判明し、左乳房を全切除するしかないと宣告されました。さすがにそのときはこれからどうなるのだろうと落ち込み、他の病院でセカンオピニオンを受けましたが、やはり診断は同じでした。
でもそうであれば仕方がないと覚悟を決め、医師から言わるまま早々に手術の日程を決めました。いま思えば、乳頭・乳輪を残す残さないといった手術方法のことや、ましてや乳房再建についての知識などまったくないまま、医師にすべておまかせの状態で手術日程を決めていたわけです。
運命の出会いとなった1冊の本
そんな時、たまたま足を運んだ図書館で偶然手にとったのが『乳がんを美しく治す』という1冊の本でした。自家組織による乳房再建手術を手がけている横浜市立大学付属市民総合医療センターの佐武利彦先生の著書でしたが、これが運命の出会いとなりました。
その本で、失った胸を再建できることを知り、巻末の「再建手術を行っている医師リスト」の中に、地元の埼玉医科大学総合医療センターの三鍋俊春医師の名前を見つけました。このとき、ぜひこの先生にお会いしたいという強い気持ちが湧いてきて、それまで治療に受け身だった私が、はじめて自分の意思で同センターに電話をかけ診察の予約を入れました。
「埋蔵金を利用しようよ!」初診で三鍋先生は明るくこうおっしゃってくださいました。埋蔵金とは、もてあましているお腹やお尻の脂肪のこと。三鍋先生の説得力ある説明をうかがえばうかがうほど、自家組織での再建手術を受けたいという気持ちが強まっていきました。それにお腹の脂肪もとれるなら一石二鳥ですから、迷うことはありませんでした(笑)
乳がんの手術も同センター乳腺外科の大西清先生に執刀していただき、そのまま三鍋先生にバトンタッチする形でエキスパンダーを入れました。そしてその翌年にお腹をドナーとした再建手術を受けました。
自ら行動をおこしたからこそ行き着いた再建手術
私は教員で、比較的病気休暇を取りやすい立場にありましたので、乳がん手術には3週間、再建手術には2週間の入院期間をとり、時間的に余裕をもって治療を受けることができました。「これまで教育者として何十年も一途に突っ走ってきたのだから、ここで少し休めという天の声なんだよ」といった同僚たちからの励ましの言葉も、私にとっては随分支えになりました。
いまでは、趣味のダイビングも何の不具合も感じずちゃんと水着を着て楽しんでいますし、手術前と何ら変わりのない日常生活を送ることができています。
これも、それまで医師に言われるがまま治療のベルトコンベアーに乗っていた私が、たまたま図書館で1冊の本と出会い、自ら行動を起こしたからなのだと思っています。そうでなければ再建に行き着くことはできず、乳がんは治したけれども、全摘出したままの胸で、随分不便な生活を送っていたことでしょう。自ら行動をおこしてみれば、きっと良き出会いがある。そのことをいまつくづく感じています。
*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。
(取材:2013年1月)