「“温存手術”後の胸をきれいに再建できてとても晴れやかな気持ちです」
北海道 YKさん(37歳)
手術方式 : 「二次一期再建」(広背筋皮弁 乳がん手術から時間をおいて再建)
・乳がん手術 :2007年10月 右乳房 温存手術
執刀・札幌乳腺外科クリニック 渡部芳樹医師
・乳房再建手術 :2010年1月 広背筋皮弁法による再建
執刀・札幌道都病院 江副京理医師
術前治療 : なし
術後治療 : 放射線、抗癌剤(UFT 2年間)
症例の非常に少ない珍しい乳がんを経験
脳梗塞で倒れた母の介護に明け暮れていた20代。その母が他界し、これから自分のことに思う存分時間が使えると思っていた矢先に乳がんの告知を受けました。しこりを感じて受診し、細胞診では良性と診断されたので、日帰り手術で腫瘍を摘出。しかし1週間後にかかってきた主治医からの電話で、実はほとんどがん細胞だったと知らされました。
母がかつて乳がんを克服しており、私自身もくよくよ思い悩むほうではないので、乳がんと聞いてもそれほど動揺することはありませんでした。すぐに手術が決まり、センチネルリンパ節生検で転移もみられなかったことから、温存による乳がん摘出手術を受けました。
手術後、私のがんは“紡錘細胞がん”といって乳がんでも0.1%程度しか症例のないたいへん珍しい癌だったと聞かされました。有効な治療法が確立されておらず、抗がん剤やホルモン療法の効果も期待できないといわれましたが、幸い転移もなく、身体の調子もたいへんよかったので、再発を防ぐため2年間抗がん剤投与を受けることにして、退院後すぐ職場にも復帰。お陰さまで、この秋で手術からまる6年が経過しました。
温存でも再建できることを知って迷わず決断しました
再建のことはまったく考えていませんでした。右乳房の外側はげんこつ大くらいに大きくえぐれてしまいましたが、ブラジャーにガーゼを丸めて詰めればほとんどわかりませんし、何よりも乳房再建は全摘手術をした人が受けるもので、自分には関係ないことだと思い込んでいたのです。ところが抗がん剤を飲み終えるころ、主治医から、「温存手術の胸もきれいに再建してくれる先生が札幌にいるんだけど、会ってみる?」というお話があり、「温存で再建」という言葉に興味を引かれた私は、すぐ予約を入れて札幌道都病院の江副先生をお訪ねしました。
一目みて「余裕で再建できますよ」とおっしゃった江副先生は、背中の筋肉を使う“広背筋皮弁”という再建方法を勧めてくださいました。CTで筋肉や血管の状態を検査していただいたところ特に問題はなく、すぐその場で再建を決意。先生には、「普通そこは迷うところなんだよ・・・」と驚かれてしまいましたが、私にすれば迷う理由なんて何もありません。
江副先生は、一人ひとりの患者さんととことん対話を重ねる方で、私も手術のころには何ひとつ疑問や心配はなく、軽口もたたけるほどの間柄になっていました。きれいになるための手術なのですから、安心してすべてお任せする気持ちで手術に臨めることは、患者にとってもとても重要なことだと思います。
誤解ゆえに再建手術に尻込みをするのはとても残念なことです
いまこうしてきれいな胸を取り戻してみると、大好きだった銭湯や温泉に行きにくくなったことや、バストラインの出る洋服が着られなくなったことなど、納得していたつもりの一つひとつの我慢が結構なストレスになっていたことに気づきます。
背中の傷もだんだん薄くなってきていますし、いまではワイヤー入りのブラジャーを着けてもまったく平気。最初のうちは寒い冬の日に背中がつっぱって痛むこともありましたが、もうほとんど気になることはありません。もしあのまま再建することを知らずにいたら、こんなにすがすがしい気持ちで毎日を過ごせていただろうかと思わずにいられません。
最近までは温存療法が主流でしたから、温存手術の経験者にこそ乳房再建手術に関する情報が必要なのを痛感しています。反対に、全摘をされた数名の方に再建を勧めてみると、シリコンインプラントは膨らみが不自然だと思い込んでいる方も少なくありません。ちょっとした誤解のために、再建の機会を逸するのはあまりに残念です。
再建するしないに関係なく、まずは再建の情報を少しでも知ってほしい
*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。
(取材:2013年9月)