「手術の傷が癒えるほどに病気を意識することも減りました」
東京都 H.Rさん(45歳)
手術方式 :「一次二期再建」
(インプラント 乳がん手術と同時にティッシュエキスパンダーを挿入)
・乳がん手術 :2009年4月 右乳房全切除
執刀・聖路加国際病院 中村清吾医師(現在は昭和大学病院)
・乳房再建手術 :2009年4月 エキスパンダー挿入
2009年12月 インプラント(350cc)への入れ替え手術
執刀・ブレストサージャリークリニック 岩平佳子医師
術前治療 : 無治療(抗がん剤、放射線、ホルモン療法は行わず)
術後治療 : 同上
胸をなくすのがいやで10年間がんを放置
右胸に小さなしこりを感じたのがもう15年ほども前。普通ならすぐ病院に行くのでしょうが、私はそれから10年もの間、ずっと見て見ぬふりをしてしまいました。理由は、とにかく胸がなくなってしまうのがいやだったから。「乳がん告知=胸をなくすこと」だと思い込んでいたので、怖くて定期検診にも行けず、胸をなくすくらいなら、このまま生きられるところまで生きればいいとさえ思っていました。
やがて、右胸を触るとピーナツの板チョコが一枚入っているような感じになり、時々痛みむようにもなりました。さすがに“年貢の納め時”と観念して病院へ。マンモグラフィで胸全体に石灰化が認められ、マンモトーム生検を経て2009年1月に乳がんの告知を受けました。
右胸全体に石灰化が広がっていたので、全切除しかないとのことでしたが、主治医から「顔つきのいいがん(病理学的な悪性度が低いこと)だから、ちゃんと手術すれば心配ない」と言われたときは、がん告知のショックよりも、生きられるんだということにむしろ驚いたほどでした。
入院が短期ですむインプラントを選択
このとき初めて「乳房再建手術」というものがあることを主治医から知らされました。ただ、そのときの私は「患者会」の存在なども知らなかったので、どのようにして情報を得たらいいかわからず、苦しい思いをしました。少しでも納得のいく再建手術を受けるために、とにかく手当たり次第に情報を集め、その過程では、自家組織による再建にも気持ちが動きましたが、仕事で長期入院することが難しいこともあり、ひとまずインプラントを選択。自家組織は、いずれ時間が取れるようになったときに、改めて考えることもできると思ったからです。
結局、告知の3カ月後に乳がんの切除と同時にティッシュエキスパンダーの挿入手術を受け、8カ月後にインプラントへの入れ替え手術を受けました。
これから手術する人たちに何らかの“気づき”を提供できたら・・・
再建後の生活はとても快調です。すぐにティッシュエキスパンダーが入ったので乳房の喪失感がなく、また術後の治療をする必要がなかったため、病気からの心理的な立ち直りもとても早かったと思います。手術の傷が癒えていくにつれて病気のことも忘れていき、いまでは乳がん患者だという意識はほとんどありません。
自分で長い間放置しておいたくせに、乳がんの告知を受けて手術を受けるまでは、あれこれと思い悩むことがたくさんありました。どの病院がいいか、どんな術式がいいか、セカンドオピニオンやサードオピニオンを受け、この医師がいいときけば会いに行き、期待と違う対応を受けたり、思うように話ができずに葛藤が深まったり…。いま思えばいろいろな不安にとりつかれていたのだと思います。でもこうして落ち着いてみると、よい先生方に巡り会えたことに心から感謝する毎日です。
患者会の存在は手術後に知るようになりました。私自身がいろいろな情報に翻弄されてしまったことを振り返りながら、これから手術を受ける人たちに、何らかの気づきの機会を提供していけたらと思っています。
*インタビュー記事は個人の体験談に基づく感想で、E-BeCで推奨するものではありません。体験談は再建を考える際の参考にしていただき、主治医や医療者とよく相談をして決めるようにしてください。
(取材:2012年8月)