乳がんを宣告された女性たちのために「乳房再建手術」の経験者たちがつくった写真集
2010年の秋、NPO法人E-BeCの前身であるSTPプロジェクトが1冊の写真集を発行しました。
乳がん手術を経て、「乳房再建手術」と出会った19人の女性たちの姿を撮った写真集 『いのちの乳房 -乳がんによる「乳房再建手術」にのぞんだ19人-』です。
私たちが写真集を制作することになったきっかけは、2008年にメンバーの1人が乳がんになり、「乳房再建手術」を受けたことで再び前向きになれた自分自身の経験を、一人でも多くの乳がん患者さんに知ってほしいと感じたことからでした。
モデルになった19人の女性は、全員が「乳房再建手術」の経験者。住む場所も職業もそれぞれに異なりますが、「同じ病気に悩み苦しむ女性たちのために!」と、積極的にこの企画に賛同してくださいました。
「乳房再建手術」の存在がまだそれほど知られていなかった当時、再建経験者たちの誇りと自信に満ちた姿をおさめた写真集はメディアからも注目され、大勢の乳がん患者さんたちに乳房再建について知ってただくきっかけとなりました。
“アラーキー”こと荒木経惟氏の撮りおろし
撮影は、“アラーキー”こと荒木経惟氏にお願いしました。近年、普通の人々が明るく誇りを持って生きる姿を積極的に撮り続けている荒木氏の手腕と感性をお借りすることで、病気を克服し、病気とともに生きる女性たちの美しく魅力にあふれた姿をありのままに伝えたいと考えたからです。
私たちの思いを汲み取ってくださった荒木氏は、初めてプロの写真家の前に立つモデルさんたち一人ひとりと向き合い、その凛とした美しさだけでなく、その人となりや生き方までをもいきいきと撮りおろしてくださいました。
撮影:野村佐紀子
出版は、写真集出版をメインに、感性あふれる出版活動で常に高い注目を集めてきた出版社「赤々舎」(代表・姫野希美氏)。写真集づくりにみずみずしい感性を発揮する姫野さんとの出会いにより、写真集『いのちの乳房』にはさらに豊かな生命感が吹き込まれました。
⇒ 赤々舎のサイトへ
「乳房再建手術」のことをもっと知ってもらうために
写真集は書店販売のほか、一人でも多くの乳がん患者さんたちに「乳房再建手術」ついて知ってもらうため、企業の支援を受けて、一部を全国の乳腺外科医および乳がん看護の認定看護師さんに寄贈しました。
乳がんを宣告され孤独や絶望の淵に立つ女性たち、手術で美しい胸を失ってしまった女性たち――。この写真集の根底には、辛い思いを抱える女性たちに「乳房再建手術」のことを知ってもらい、胸を張って生きてほしいという私たちの強い願いが流れています。
その思いはまた、現在に至るNPO法人E-BeCの理念ともなっているのです。
モデルさんたちの声
『いのちの乳房』は、「乳房再建手術」を経験した19人の女性たちが自らモデルになってつくった写真集です。皆さんの「乳房再建手術」への思いや、モデルになることを決意した声をぜひお聞きください(年齢は撮影当時)。
- 乳腺外科医のおかげで生命がつながり、形成外科医のおかげで、母として女性として、人間としての自信と勇気を得ました。(38歳)
- 乳がんを宣告されても手術を怖れることはありません。だって綺麗な胸を作ればいいんです!(40歳)
- 胸を全摘出したある女性は、私の乳房に触れて「私も胸がほしい」と再建を決意されました。「2つの胸が揃った身体でお棺に入りたいから」とおっしゃった年配女性もいました。乳房再建の素晴らしさをお伝えすることは、いまの私に与えられた大きな使命です。(兵庫県・58歳)
- 宣告を受けたときの私は失意のどん底でした。でも「2年もしたら、手術したことも忘れるくらいですよ」という執刀医の言葉がいま現実になりつつあります。日々回復するおっぱいの頑張りに、私も負けてなどいられません!(37歳)
- この情報化時代に、情報がないために選択肢を失うことは、乳がん患者さんに流さなくてよい涙を流させることになります。いまも人知れず泣いている患者さんたちの背中を押したくて、モデルになることを決意しました。(58歳)
- 「モデルになるのは、力になってくれた方々への恩返しのため…」とカッコいいことが言えたらいいのですが、本当は「この身体とともに生きていく!」と決意した、自分自身との約束を確認するためです。(37歳)
- 乳がんになったことは不運だったけれど、決して不幸ではなかった。今回の企画と出会って、そう確信しています。だって、あのアラーキーに撮っていただけたんですもの!(50歳)